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重症筋無力症

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疾患概要

腕や足の力が弱くなる。瞼が垂れて下がる。物が二重に見えるなどの症状を引き起こす病気です。症状が重い方では食べ物が呑み込めない、息が苦しいといった症状が起こることもあります。しかし「重症」とありますが、現在では重症化することはそれほど多くありません。名前の由来は、Myasthenia:ギリシャ語で「筋・無力」とGravis:ラテン語形容詞で「重症」から来ています。この病気はヨーロッパでは17世紀からその存在が知られており、当時はその名の通り、重症化して不幸な転帰をたどるケースも多かったようです。

現在では様々な治療が普及し始めており、学業や仕事と治療を両立している方もすくなくありません。

体を動かすためには筋肉が収縮する必要がありますが、その命令を伝える神経と、筋肉とが接する場所を神経筋接合部、と言います。「手を動かしなさい」という命令が神経を伝わって神経の先端である神経終末まで来ると、そこでアセチルコリンという物質が神経筋接合部に放出されます。アセチルコリンが筋肉側にあるアセチルコリン受容体に結合することで筋肉の収縮がおこりますが、重症筋無力症では筋肉側にあるアセチルコリン受容体を攻撃してしまう抗体「抗アセチルコリン受容体抗体」が自分の体内で作られてしまうため、アセチルコリン受容体が減ってしまい、神経を伝わってきた情報が十分に筋肉に伝わらなくなってしまいます。こうした、自分の体内で自分の身体に対して作られてしまう自己抗体は、重症筋無力症のなかでは抗アセチルコリン受容体抗体が最も多く全体の85%程度、次に筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)でこれが全体の数%と考えられています。残りの数%はどちらも陰性です。なぜこれらの抗体が体内で作られてしまうのかは今も良くわかっていません。抗アセチルコリン受容体抗体を持つ患者さんの約75%に胸腺の異常(胸腺過形成、胸腺腫)が合併しているため、何らかの胸腺の関与があると疑われています。

症状

筋肉がうまく収縮できないことに加えて、疲れやすくなるという特徴があります。

とくに繰り返しの動作などができなくなり、午前よりも午後のほうが症状の悪い患者さんが多くみられます。また、しばらく休むと症状が改善する傾向もあります。

以下のような症状がある場合には当科へご相談ください。

  • 午後に瞼が下がってくる
  • 物が二重に見える(帰宅時の運転の際にセンターラインが二重に見える)
  • 髪を洗ったり、ドライヤーで乾かしていると腕がだるくなりやすい
  • 洗濯物を高いところに干しにくい
  • 歯を磨いていると腕がだるくなりやすい
  • 階段を続けて登れない
  • 長話をしているとろれつが回らなくなってくる
  • 歌を歌っていると鼻声になる
  • 固いものを噛んでいるとあごが疲れてくる

治療法・対処法

検査

採血で抗アセチルコリン受容体抗体、MuSK抗体の有無を調べるとともに、その他の疾患がないかどうかという検査も含めて行ってゆきます。とくに甲状腺機能低下症などを合併しやすいため、甲状腺機能のチェックを行います。

テンシロンテスト

神経筋接合部に放出された大量のアセチルコリンはコリンエステラーゼという酵素で分解され、量を調節されます。この酵素の働きを阻害する薬であるコリンエステラーゼ阻害薬(アンチレクス®)を静脈内投与すると、受容体の減少した神経筋接合部でも、神経からの情報が伝達されやすくなり、筋力が一時的に回復します。薬を投与した直後に下がっていた瞼が上がったり、ろれつが回らない状態が改善したり、力が入るようになったりすれば「テンシロンテスト陽性」で、重症筋無力症らしい検査結果ということになります。

反復刺激試験(Harvey-Masland test

筋肉に反復して電気刺激を送り、得られる波形から、重症筋無力症の特徴である「つかれやすさ」を証明する検査。重症筋無力症の場合、波形の振幅が徐々に減ってゆく現象がみられることがあります。

単線維筋電図

症状のある筋肉に針を刺して、反応を見る検査です。

胸部CT

胸腺腫があるかどうかチェックするために行います。

治療法

重症筋無力症は治療法が確立し、予後は著しく改善しましたが、ステロイドや、免疫抑制剤の治療が長期間にわたって必要になるため、合併症に注意をしながら治療を継続してゆきます。

対症療法

テンシロンテストで使用したコリンエステラーゼ阻害薬の内服薬である、メスチノン、マイテラーゼなどがあります。お腹がごろごろしたり、涙、唾液が多くなるという副作用がありますが、自然と慣れてきます。

免疫療法

副腎皮質ステロイド

重症筋無力症のもっとも基本的な薬です。自己抗体の産生を抑制することで、症状の改善が得られます。全身の症状がある場合に使用することが多いですが、症状が眼だけの場合にもコリンエステラーゼ阻害薬に対して効果不十分の場合には副腎皮質ステロイドを使用されることがあります。副腎皮質ステロイドは副作用として消化管潰瘍や、骨粗しょう症、高血圧、糖尿病などがあるため、予防薬を使ったり、生活上の注意をしながら、治療を行います。さらにできるだけ少量の副腎皮質ステロイドで症状がコントロールできるよう、免疫抑制剤の処方や、胸腺摘除術を行うこともあります。

免疫抑制剤

副腎皮質ステロイドと同様に自己抗体の産生を抑制することで症状の改善が得られます。多くの場合は副腎皮質ステロイドから治療を始めます。副腎皮質ステロイドで症状が安定した場合は、ステロイドの内服量は1日5mgを目標に徐々に減らしてゆきますが、症状のコントロールがうまくいかない場合に併用したり、またその他の疾患の合併があり、副腎皮質ステロイドを使いにくい状況で使用することがあります。

免疫グロブリン療法

ステロイドや免疫抑制剤などの治療を行っても症状のコントロールが得られない場合に行われます。免疫グロブリン製剤を一日あたり400mg/kg体重を5日間連日点滴静注します。

血液浄化療法

人工透析のような装置をもちいて、抗アセチルコリン受容体抗体などの自己抗体を血液中から取り除く治療法です。通常は2週間に3~5回行われ、効果は即効性があるため、クリーゼ※や重篤な状態の患者さんに行うことがあります。

※クリーゼ
急激な呼吸困難、嚥下障害などが進行して、人工呼吸器などを使用した治療が必要にある状態です。

胸腺摘除術

全身に症状があり、胸腺腫のある患者さんは胸腺を摘出する手術をおこなうことで症状の改善が期待できます。胸腺腫のない患者さんでも全身に症状がある場合には総合的に判断して胸腺を摘出する場合があります。

患者さんへのワンポイントアドバイス

重症という名前がついてしまっておりますが、症状を良好にコントロールした状態で過ごせることが大半です。早いうちから治療を開始したほうが経過が良いことが知られているので、気になる症状がありましたらすぐに当科へご相談ください。

疾患概要・病態

重症筋無力症は、神経筋接合部のシナプス後膜におけるアセチルコリン受容体(AChR)あるいは筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)などの分子に対する自己抗体が原因となる自己免疫疾患です。標的分子としてはアセチルコリン受容体が約85%を占め、筋特異的受容体型チロシンキナーゼが約5~10%とされています。さらにLDL受容体関連蛋白4(LRP4)を標的とする症例が数%存在します。自己抗体が標的分子に結合することにより、その分子の崩壊や、機能不全が起こるため、神経筋伝導効率が低下し、筋力低下と、易疲労性を自覚することになります。

2006年の全国調査では、有病率は10万人当たり11.8人、患者数は15,100人でした。男女比は1:1.7と女性に多く、発症年齢は成人では女性の場合30歳~50歳に、男性では50歳台~60歳台に発症のピークがあります。

症状

骨格筋の筋力低下、また「夕方になると瞼が下がる」「車で仕事から帰るときにセンターラインがダブって見える」「ドライヤーで頭を乾かすのがつらい」など易疲労性を反映した訴えで受診することが多くあります。症状が朝には軽く夕方にかけて増悪する日内変動、また安静により改善する点が特徴的です。四肢の筋力低下は近位筋に強く、嚥下障害、構音障害のほうが目立つ患者もみられます。

全経過で眼症状(眼瞼下垂、複視)のみに限局する眼筋型(MGFA I型)が全体の20%を占め、眼症状は片側性の場合もあります。眼筋型で発症した症例でも、全身型(MGFA II~V)に移行することがあり、その大部分で2年以内に移行が起こります。初発症状としては5割に複視、7割に眼瞼下垂がみられます。

現在病状評価はMGFA分類、MG-ADLスコア、QMGスコアをもちいています。

治療・最近の動向

病型と年齢、全身状態により、治療方針が変わりますが、いかなる選択をするにしても早期の治療開始が望ましいとされています。コリンエステラーゼ阻害薬、副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤(タクロリムス、シクロスポリン)、免疫グロブリン療法、血漿交換療法、拡大胸腺摘除術、を使い分けています。

MGFA I型

コリンエステラーゼ阻害薬から治療を開始します。ADLとコリンエステラーゼ阻害薬への反応などを総合的に判断し副腎皮質ステロイドを使用します。胸腺腫合併例では胸腺摘除をおこないます。

MGFA IIA,B型

65歳以上の発症でなければ拡大胸腺摘除術を行い、その後副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤を使用します。適宜コリンエステラーゼ阻害薬を使用します。65歳以上の例も全身状態や合併症を考慮したうえで胸腺摘除術を行うことがあります。

MGFA III, IV型

副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤で状態を改善させたのちに胸腺摘除術を行います。

副腎皮質ステロイドは長期間にわたる内服が必要となる事が多いため、副作用への配慮が重要になります。日本神経学会が2014年発行した重症筋無力症診療ガイドラインでは「プレドニゾロン1日内服量が5mg未満」が推奨されています。プレドニゾロン20~30mgにくわえて免疫抑制剤などを使用することで、速やかに症状を安定させ、ステロイドの漸減をおこなってゆきます。

当院で行っている臨床研究・実績など

非胸腺腫重症筋無力症に対する胸腺摘除に関してはこれまでエビデンスが存在しませんでしたが、2016年New England Journal of Medicine誌にMGTX study(多施設共同無作為化試験)の結果が掲載され、発症後5年未満で18~65歳の非胸腺腫重症筋無力症例における、胸腺摘除の有効性が報告されました。当院では65歳以上で発症した症例についても調査を進めています。

最終更新日:2017年3月31日

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