こころの病気のミニ事典

性同一性障害

女性なのに、自分は「本当は男なんだ、男として生きるのがふさわしい」と考えたり、男性なのに「本当は女として生きるべきだ」と確信する現象を「性同一性障害(gender identity disorder, GID)」と呼びます。このような性別の不一致感から悩んだり、落ち込んだり、気持ちが不安定になることもあります。
性同一性障害については、まだ理解が進んでいるとはいえず、診断や治療ができる病院も多くはありません。そこで、性同一性障害とはどのような病気であるのか、その症状や治療法、法的側面等について解説します。

 

性同一性障害の症状

主な3つの症状

性同一性障害を有する人にみられる症状は、「自らの生物学的性別とジェンダー・アイデンティティが一致しない状態」から生じるものです。しかも、生物学的性別をジェンダーに近づけたいという願望からくる症状として、理解することができます。

  • 自らの性別を嫌悪あるいは忌避する
  • 自分の性器が間違っている、成人になれば反対の性器を持つようになるであろうなどと主張したり、自分の性器はなかったらよかったのにと考えることもあります。
    また、2次性徴期には、男性では声変わりがしたり、喉仏が目立ったり、肩幅が広く、筋肉が張ってくる、陰茎が大きくなるなど、女性では体つきが丸みを帯び、月経が発来したり、乳房が膨らむなどの変化が起こります。こうした男らしい、あるいは女らしい体つきになることに対する嫌悪感や忌避の気持ちが強くなります。
    そのために、すね毛をそったり、乳房を晒しで巻き、ふくらみを隠そうとしたりします。これらの症状は、自らのジェンダーにふさわしくない身体症状を嫌悪し、忌避することからくるものです。

  • 反対の性別に対する強く、持続的な同一感を抱く
  • 自分の存在そのものを、自らのジェンダーと同一化したいと願い、反対の性別になりたいと強く望みます。そのために、反対の性別の服装(異性装)をしたり、反対の性別としての遊びを好みます。
    男の子の場合、女の子の遊びを好んだり、女の子の服装をしたいと望みます。また、女の子の場合には、男の子のような活発な遊びを好みます。これは、自らのジェンダーにあった生活や遊びをすることが自分の気持ちにしっくりするためです。

  • 反対の性別としての性別役割を果たそうとする
  • 日常生活の中でも反対の性別として行動したり、義務を果たしたり、家庭や職場、社会的人間関係でも、反対の性別として役割を果たそうとします。また、言葉遣いや身のこなしなど、様々な点で、反対の性別として役割を演じることを希望し、実際そのように実行します。

    性同一性障害と同性愛、服装倒錯症の違い

    性同一性障害は、同性愛と混同して考えられることが少なくありませんが、両者はまったく別のことです。すでに述べたように、性同一性障害は、自らの性別に関するジェンダー・アイデンティティの問題です。一方、同性愛は性対象として同性の相手を選ぶことを意味しています。したがって、性同一性障害を有する人の中には、異性愛の人もいれば同性愛、あるいは両性愛の人もいます。
    また、性同一性障害では反対の性別の服装をしたり、装飾品を身につける「異性装(服装倒錯症)」がみられます。しかし、異性装をするからといって、性同一性障害とは言えません。
    自分の性別とは反対の服装をする人たちは昔から知られており、一般に異性装と呼ばれていました。20世紀の初め頃、異性装をする人達を学術的に服装倒錯症(transvestism)と呼ぶようになりましたが、その後、異性装によって性的快楽を得る人の他に、自らの生物学的性別とは異なるジェンダーを有する人が、反対の性別の服装を身にまとおうとすることが明らかになりました。
    このように、異性装をする人たちの中には、性的快感を得るための場合と、反対の性別に帰属することを求める場合があります。性同一性障害では、性的快感を求めるためではなく、自らのジェンダーに合った服装をすることを願うために異性装をします。

 

性同一性障害の診断について

性同一性障害の診断は次の1から4のステップで行います。

1.生物学的性(SEX)の決定

染色体検査、ホルモン検査、内性器、外性器の検査を行って、生物学的性別は、正常な男女のいずれかの性別であることを証明します。

2.ジェンダー・アイデンティティの決定

生育歴、生活史、服装、これまでの言動、人間関係、職業などに基づいて性別役割の状況を調べ、ジェンダーの決定をします。

3.その上で、生物学的性別とジェンダー・アイデンティティが不一致であることを明らかにします。


4.その際、次のような除外診断に該当しないことを確認します。

  • 性分化疾患などの異常はない
  • 精神的障害はない
  • 社会的理由による性別変更の希望ではない
  • なお、染色体の異常などによる性分化の障害(かつての半陰陽など)においてはジェンダーの決定が重要です。それは、性分化疾患では多くの場合、gender dysphoria syndrome(性別違和症候群)といわれるようにジェンダーの問題を有していることが少なくないからです。したがって、性分化疾患は中核的な性同一性障害とは異なりますが、広くジェンダーの障害として対応を必要とします。
    これら、性同一性障害の診断は十分な経験を持つ精神科医2名の診断によって確定しますが、もし両者の診断が不一致の場合には3人目の精神科医の診断を求めることになっています。

 

性同一性障害についての知識

性別を考える2つの側面

性別といえば、男性か女性の2種類に分かれると多くの人たちは単純に考えます。しかし、性別には生物学的な性別(sex)と、自分の性別をどのように意識するのかという2つの側面があります。性別の自己意識あるいは自己認知をジェンダー・アイデンティティ(gender identity)といいます。
多くの場合は生物学的性別と自らの性別に対する認知であるジェンダー・アイデンティティは一致しているため、性別にこのような2つの側面があることには気づきません。しかし、一部の人ではこの両者が一致しない場合があるのです。そのような場合を「性同一性障害」といいます。
つまり、性同一性障害とは、「生物学的性別(sex)と性別に対する自己意識あるいは自己認知(gender identity)が一致しない状態である」と、定義することができます。

ジェンダーとは何か

ここまで「ジェンダー(gender)」という言葉を使ってきましたが、この言葉はいろいろな使われ方をしています。大きく分けて以下の3つがあります。

(1)生物学的性別を意味する使い方
形態や機能の上から区別できる雌雄(female, male)のこと(性的二型)を生物学ではジェンダーと呼びます。

(2)社会的・文化的に形成された性差を意味する使い方
「人為的・社会的に作られた性差」、「男性が優位であるかのように作られた性差」という立場でジェンダーを把え、社会的・文化的性差の意味で用います。

(3)性別に対する自己意識、自己認知を意味する使い方
「自分は男(女)である」、「男(女)として生活することがふさわしい」と感じる性別に関する自己意識(認知)の意味で用います。心理・社会的性別と呼ばれることもあります。

このように「ジェンダー」という言葉は、使われる状況や背景によって意味が大きく異なってきます。性同一性障害について述べている場合には、3番目の「性別に対する自己意識、自己認知」を意味していると考えてください。