松沢病院について

2014.01.23

Vol.042014年の年頭にあたって 松沢病院の現在とこれから

 平成26年、新しい年が始まりました。都立松沢病院は本年も、病気に悩む患者さんの信頼に応え、納税者の期待に応えるべく、職員一同、全力を尽くしたいと思います。

 松沢病院は、昨年4月以降、民間の医療機関を初めとする、外部からのご依頼を門前払いにしないという目標を掲げて診療に当たって参りました。昨年4月からの8ヶ月余りの間、関係各位のご厚意に支えられながら、松沢病院は、この目標達成に向かって大きな一歩を踏み出すことができました。公立病院として、民間の医療機関をバックアップするという役割は、非常に重要な機能であり、今後も、この姿勢を堅持しながらさらに、前進していきたいと思っています。
 これから、松沢病院は医療機関の初心に帰って、診療の質の向上を目指します。この目標は、1年間の目標というにはあまりに大きく、これからずっと、掲げ続けなければならない目標です。診療の質、特に精神医療の質を評価することは簡単ではありません。さしあたり、患者さんとご家族の評価に誠実に耳を傾けることから始めたいと思います。

 精神科では、しばしば、ご家族のニーズと患者さんのニーズが異なります。患者さんが、精神病症状の悪化のために自宅での生活が危機に瀕したとき、ご家族は、私たちが入院をお引き受けしただけで感謝してくださいますが、病気だという認識もないまま、強制的に入院させられた患者さんにとっては、感謝どころの騒ぎではありません。毎年実施する患者さんのアンケートには、強制的に入院になったうえに保護室に隔離されたり、ベッドに拘束されたりした患者さんの、激しいな怒りや深い悲しみがにじんだ自由記載がいくつも見られます。アンケートで、病院の医療に「満足」、「ほぼ満足」という答えが大部分を占めたとしても、悲鳴のような抗議の声を上げる患者さんが1人でもあれば、私たちの医療はまだまだだといわざるを得ません。さらにいうなら、患者さんより、「満足」という答えが多いご家族にしても、困り果てた挙句に入院を引き受けてもらった、という負い目があると病院に対して遠慮がちになる、ということもあるでしょう。臨床の仕事は、個人を相手にするものです。1人1人の患者さんの声に誠実に向き合うことなしに臨床の質を語ることはできません。同様に、ご家族の複雑な思いにも丁寧に配慮ができる病院を作りたいと思います。

 診療の水準を向上するために、必要なことが二つあります。第一は個々の職員の能力の向上、第二は病院全体の組織力の強化です。『個々の職員』には、医師、看護師、コメディカルスタッフなど、直接患者さんに関わる職種だけでなく、施設のメンテナンスや事務管理を担当する職員を含みます。そのために、研修の機会を充実し、学会発表や論文執筆など、自分たちの仕事を世に問う活動も支援したいと思います。職員個人の能力を上げるためには、現在、松沢病院で働く職員の能力向上に加えて、外からの新しい人材の導入も必要です。特に、医師については、大学病院、総合病院、私立の精神科病院、あるいは診療所など、様々な場を経験した人材を集めたいと思っています。様々な経験を持つ人が集まることによって、複眼的な思考が可能になり、自分たちの仕事を全体の中に正しく位置づけることができるようになります。他の医療機関で働く若い医師にとって、数年間を松沢病院で過ごすことは決して無駄にはならないはずです。松沢病院で研修を受けている医師も、一度は外の医療機関を経験して、また、松沢に戻ってくるというキャリアパスがあるとよいと思います。

 『個』の能力向上と並行して、松沢病院という『組織』の確立と活性化が重要です。公立病院というのは、例えば、看護部は、看護部として組織化されていますし、事務部門も、その他の部門もそれなりの組織体系を持っていますが、それらが有機的に結びつきにくいために民間の医療機関と比較すると、非常に無駄の多い組織になっています。いわゆる、縦割り組織の弊害です。特に、松沢病院は、1919年以来100年以上にわたって、広大な敷地にたくさんの病棟が散在し、それぞれをそれなりに力のある医師や看護師長が運営するという伝統の中で続いてきました。2012年の新病棟完成で、病院はひとつのビルの中に集まったのですが、医局員のメンタリティーとしてはこれまでの精神を引きずってきたという気がします。しかし、時代は明らかに大きく変わりました。松沢病院を取り囲む経済状況、医療の状況は非常に厳しく、かつてのような牧歌的な経営が許される状態ではありません。1年間に3000人近い入院があり、1日の外来が400人を越える病院では、もてる人的資源を最大限有効に活用しないと、患者さんのニーズに応える質の高い医療は実現しません。これまでのやり方にとらわれない、斬新な組織運営と、個々の構成員の組織人としての覚醒がないと、せっかく納税者の皆様からお預かりした医療資源に無駄が生じます。新しい皮袋には、新しい酒を入れなければならないのです。縦割り組織、あるいは組織以前の状況から脱却し、縦にも横にも斜めにも、文字どおり、縦横無尽に情報が通り、指示が通る組織を作らなければなりません。そういう組織は強く、しなやかに迅速に機能するはずです。

 今年も、皆様の温かいご支援と、厳しいご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。ことに、大きな変化の渦中にある精神科医局では新しい力を必要としています。関心のある方はぜひ、私どもの病院をお尋ねください。新しい精神医療の創造のために力を貸してください。