診療科のご案内

乳がん診療のご案内

1 乳がんってどんな病気?
 腫瘍(できもの、新生物)には良性腫瘍と悪性腫瘍があります。簡単にいうと、元の腫瘍から体のほかの部位へ、血管やリンパ管を通って腫瘍細胞が飛ぶ(転移)性質があり、進行して命を奪う可能性がある腫瘍を、悪性腫瘍といい、そうではなく、生命に影響しない腫瘍を、良性腫瘍といいます。悪性腫瘍の中で、もっとも多いのが癌(がん)であり、乳がんは乳房(厳密に言うと乳腺)にできる癌です。
 日本では、乳がんは次第に増えていますが、主な理由として、ライフスタイルが欧米化してきたことがあげられます。この10年あまりの間、女性がかかる癌で最も多いのは、乳がんです。20人に1人の女性が、生涯に経験するといわれています。決して、珍しい病気ではありません。
 日本では、乳がんの患者の年齢は、他の癌より低い傾向があり、40歳から50歳代が、最も多くなっています。40歳を過ぎたら、乳房を自分で触ってみたり(自己触診)、乳がん検診を受けるなどして、乳がんの早期発見に努めたほうがよいでしょう。
 乳がん患者の4人に1人は、乳がんのために命を落としています。癌が進行した状態で発見されるほど死亡率は高く、乳がんで命を失わないためには、早期発見し、適切な治療を受けることが重要なのです。
2 乳がんの症状は?
 最も多いのは、乳房のしこりです。その他には、皮膚の変化(ひきつれ、浮腫、発赤、潰瘍、乳頭部のただれ、乳頭陥没、など)、乳頭からの分泌物(特に血液が混じったもの)、乳房の痛み、などを伴うことがあります。腋窩(わきの下)のリンパ節に転移がある場合は、わきの下にしこりを触れることがあります。
3 診断はどのようにされるの?
 乳がんの患者さんが病院を受診されるきっかけは、ご自分でしこりをみつけて来られる場合もありますし、乳がん検診での触診やマンモグラフィーで異常を指摘され、受診することもあります。婦人科を受診される方もいますが、乳房の異常は、普通は外科で診療を行います。 初診時はまず、受診までの経緯をお聞きし、続いて診察をします。
 乳がん診察の際、特に重要なのは、触診(手で触れて診察をすること)です。乳がんは一般には硬いしこりで、しこりと周囲との境界がわかりにくく、可動性(しこりを手で動かすと、よく動くこと)が乏しいとされています。また、しこりを中心に、周囲の皮膚をつまむと、しこりの表面に引きつれができる所見(えくぼ症状、dimplingといいます)がみられることがあります。これらの所見のすべてが揃うとは限りませんが、熟練した外科医が診察をすれば、しこりが悪性か良性かは、大体の見当はつきます。 続いて検査を行いますが、体への負担が少なく、かつ有用な検査として、マンモグラフィー(乳房のレントゲン写真)と乳腺エコー(超音波検査)があり、まずこれらを行います。 マンモグラフィーや乳腺エコーでも、それらの所見により、良性の病変か悪性の病変か、見当がつく場合が多いのです。
 これら、触診、マンモグラフィー、乳腺エコーなどの所見を総合し、ほぼ間違いなく良性(線維腺種や嚢胞など)と判断されれば、経過を観察するだけで問題はありません。 一方、乳がん(乳がん以外にも悪性腫瘍はありますが、まれであり、ここでは触れません)の疑いがあるようなら、確定診断を下すため、病理検査が必要となります。 病理検査としてよく行うのは、穿刺吸引細胞診や針生検です。いずれも病変の一部を採取し、顕微鏡的で細胞や組織を観察し、診断を下す方法です。
 これらにより、乳がんと確定診断されれば、治療が必要です。
 良性であると診断されれば、経過観察など、今後の方針を決めます。
 穿刺吸引細胞診や針生検では、採取された細胞や組織が少ないこともあり、良性とも悪性とも診断できない場合があります。そのような場合は、局所麻酔下に皮膚を切開して、しこり全体か、しこりの一部を切除し、病理検査を行います。こうすれば、確実に診断でき、診断結果に応じて、適切な対応をすることができます。
4 乳がんの治療はどうするの?
 まず、治療に進む前に、現時点で、乳がんがどれだけ進行しているかを知る必要があります。進行度によって、治療法や予後が違ってくるからです。
 進行度は、しこりの大きさや状態、わきの下のリンパ節への転移の有無、骨や肺など他の臓器への転移の有無などで判定します。これらを診断するために、胸やお腹のCTスキャンや骨シンチグラフィー、乳房のMRIなどの検査を行います。
 乳がんの治療は、手術が中心ですが、これに化学療法(抗がん剤による治療)やホルモン療法、放射線療法などを組み合わせて行います。

(1)手術について
 手術の方法は、おおまかに2種類あり、
 @乳房切除術
 A乳房温存手術
に分類されます。

 @は乳輪も含め、乳房全体を切除する方法で、Aは病変部を中心に、1〜2cm大きめに乳腺を切除し、それ以外の乳房は残す方法です。
 @は、乳房全体をとってしまうので、術後の変形は大きくなりますが、癌細胞が残る可能性は少なく、局所再発(手術部の周囲に再び癌ができること)はあまりおきません。  Aは、しこりの周囲以外は残しますから、術後の変形が少なく、美容面では優れています。
 一方、切除範囲が小さいので、癌細胞もいくらか残ってしまう場合があります。これが、局所再発(後日、手術部位の周囲にまた癌が出てくること)の原因になります。局所再発を減らすため、手術後に放射線を残った乳房にあて、残っている(かもしれない)癌細胞をたたく必要があります。この術後放射線照射ため、5週間ほど、連日通院する必要があります。
 また、あまり大きな乳がんであると、切除する量も大きくなってしまい、乳房の変形が顕著になるので、美容を重視する温存療法のメリットがなくなってしまいます。したがって、大きな乳がんには適用が難しくなります。
 いくつかの問題点はありますが、やはり美容(整容性といいます)の要素は、女性にとっては非常に重要で、乳房温存手術を希望する方が多いのが現状です。

ア 腋窩リンパ節郭清とセンチネルリンパ節生検について
 乳がんはわきの下(腋窩)のリンパ節へ転移することが多く、また、この転移の有無、転移リンパ節の数などが、癌の進行度を判定する基準となり、術後の補助療法(抗がん剤など)が必要かどうかを、判断する根拠となります。
 そのため、従来の乳がんの手術では、乳房だけでなく、わきの下のリンパ節も、すべて切除していました。これを腋窩リンパ節郭清(かくせい)といいます。
 この腋窩リンパ節郭清には大きな問題点があります。これを行うと、腕のリンパ液の流れがうっ滞して腕がむくんだり、神経の損傷のためしびれが残ったり、腕の動きが悪くなったりすることがあります。程度にもよりますが、こういった後遺症は、患者さんの生活に大きな不自由をもたらす可能性があります。
 もしリンパ節に転移が無いとしたら、リンパ節を切除する治療的な意義がなく、こういったケースに、後遺症が出るような処置を行うのは、できるだけ避けたいものです。
 こうした問題を解決するために考案されたのが、センチネルリンパ節生検という方法です。腋窩リンパ節に転移が無いケースを見つけ出し、不要なリンパ節郭清を避けることが目的です。
 センチネルというのは、“見張り”という意味ですが、センチネルリンパ節というのは、癌が最初に転移するリンパ節です。まさに、癌細胞の襲来を、見張っているわけです。このリンパ節に転移が無ければ、それより遠くにある他のリンパ節にも転移はないと考えられます。
 センチネルリンパ節を見つけるには、色素や放射性同位元素(ラジオアイソトープ)などを乳房に注入し、最初に色素に染まるリンパ節、あるいはラジオアイソトープが集積するリンパ節を探します。それを切除し、転移があるかどうかを、顕微鏡で診断します。
 転移がなければ、それより遠くにあるリンパ節には転移が無いと考えられるので、それ以上リンパ節は切除しません。センチネルリンパ節に転移があれば、それより遠くにあるリンパ節にも転移がある可能性があるので、腋窩リンパ節郭清を行います。
 センチネルリンパ節生検は手術前の触診や検査で、腋窩リンパ節に転移がなさそうなケースに行います。わきの下のリンパ節が腫れていたり、乳房のしこりが3cm以上と大きい場合は、リンパ節に転移している可能性が高いので、センチネルリンパ節生検の対象にはならず、腋窩リンパ節郭清を行います。術前検査でリンパ節が腫れておらず、転移がなさそうに思われるケースでも、そのうちの30数パーセントには、実際はリンパ節転移があるというデータがあります。実際にリンパ節転移が無いケースを確実に選り分け、そうしたケースで、不要なリンパ節郭清を省略し、患者さんのQOL(quality of life;生活の質)を向上させることが、センチネルリンパ節生検の目的といえるでしょう。


イ 乳房再建について
 乳房再建とは、乳房切除によって乳房を失った場合に、代わりになるものを用いて、新しく乳房を作ることです。
 乳房再建の方法は、大きく分けて2通りあり、ひとつは、自分の身体の一部を使って乳房をつくる方法です。おなかの筋肉を利用する腹直筋皮弁法や、背中の筋肉を利用する後背筋皮弁法があります。
 もうひとつは、人工物を用いる方法で、シリコンバッグに、ゲル状や寒天状にしたシリコン、または生理食塩水を入れたものが使用されます。
 また、乳房再建の時期についても、乳房切除と同時に乳房再建を行う一期的再建と、後日に乳房再建を行う二期的再建があります。
 個人差はあるでしょうが、乳房を失ったという喪失感は、女性にとってつらいものです。こうした喪失感をやわらげる事が、乳房再建の目的です。乳房再建を希望される方には、形成外科と協力し、乳房再建を行うことができます。
 再建方法、再建時期については、各々長所、短所があるので、よく相談して決めることがよいでしょう。

(2)抗がん剤について
 乳がんは抗がん剤が比較的よく効きます。
 抗がん剤を使う場合、大まかにいって、2つの使い方があります。
 ひとつは、手術で切除する前、ないしは後に、癌の根治性を高め、再発を予防するために投与することで、これを補助化学療法といいます。ふつうは、ある程度進行していて、再発のリスクが高いケースに行われます。
 手術前に投与するのと、手術後に投与するのと、どちらが優れているかは、今のところ、はっきり分かっていません。ただ、大きな腫瘍で、乳房温存療法を行うのが困難であるケースに、手術前に抗がん剤の投与を行うと、腫瘍が小さくなり、乳房温存療法が可能になることがあります。また、手術前投与だと、腫瘍の、抗がん剤に対する反応がよくわかります。反応が良好で腫瘍が小さくなる場合は、反応が悪い場合に比べ、予後が良好というデータがあり、癌の性格がある程度わかります。
 もうひとつは、進行しすぎていて手術ができない場合や、再発、転移した場合に、病変を小さくしたり、延命することを目的に投与することです。
 抗がん剤にもいろいろな種類があり、点滴で投与するもの、内服するタイプのものなどありますが、大規模な臨床試験によって、乳がんに効果が高い抗がん剤の種類や投与法は大体決まっており、乳がんの治療のガイドラインなどとして周知されています。したがって、どの病院でも、使う抗がん剤にはあまり違いがないといえるでしょう。
 抗がん剤というと、副作用が強くて、苦しいというイメージをもたれる方が多いようで、最初から拒否的な態度をとられる方もいらっしゃいます。事実、吐き気や脱毛、白血球減少など、副作用はあるのですが、近年は、副作用対策も進んできており、副作用が強くて、治療ができないほどのケースはあまり多くはありません。
 よく使う抗がん剤は、アドリアマイシン、ファルモルビシン、エンドキサン、5FU、タキソール、タキソテールなどです。


 乳がんの約60パーセントは、エストロゲンというホルモンの影響を受け、増殖します。こうした乳がんの細胞内には、エストロゲン受容体というものがあり、これにエストロゲンが結合すると、癌細胞は刺激を受け、増殖します。  エストロゲンは代表的な女性ホルモンで、女性の体内には必ず存在しますし、男性にも少量は存在します。
 ホルモン療法は、このエストロゲンの作用を邪魔することにより、乳がんの増殖を抑制する治療法です。抗がん剤と同様に、手術後の再発予防としての補助療法や、転移、再発した場合、延命などを目的として行われます。  ホルモン療法は、多くは内服治療であり、抗がん剤と比べ、副作用は軽度です。エストロゲン受容体の有無は、癌の組織を調べれば分かります。癌細胞がエストロゲン受容体を持っている場合は、ホルモン療法によって、再発の予防効果が期待でき、また進行例、再発例では、癌の進行を遅らせることが期待できます。こうしたことから、ホルモン療法は、広く行われています。

(4)分子標的治療について
 広い意味では抗がん剤なのですが、分子標的治療薬という、新しい概念の薬があります。遺伝子研究の進歩とともに、癌細胞に主に存在し、癌の増殖にかかわるようなタンパク分子が発見されるようになりました。分子標的治療薬というのは、こうした特定のタンパク分子を攻撃し、癌の増殖を抑える薬剤で、薬をつくる段階から、特定のタンパク分子をターゲットにしています。  乳がんのうち約20パーセントは、HER2というタンパク分子を持ち、これが癌の増殖にかかわっています。このHER2を持つ乳がんは、一般的に予後が不良とされています。HER2を狙い撃ちするハーセプチン、タイケルブという薬が開発され、乳がんの分子標的治療薬として、現在使用されています。HER2の有無もエストロゲン受容体と同様に、乳がんの組織を調べればわかるので、効果が期待できる場合は、使用を検討します。

(5)放射線療法について
 抗がん剤の治療や、ホルモン療法は、体全体に作用するので、全身療法といいますが、手術や放射線療法は、メスや放射線がおよぶ範囲のみに効果が限定されますから、局所療法といいます。  放射線療法は、いろいろなケースに行われますが、近年の最も多い対象は、乳房温存療法として、乳房部分切除をうけた患者さんです。手術の説明でも触れましたが、乳房部分切除の場合、たとえ肉眼的には癌をとりきれていても、ミクロのレベルで、癌細胞が残っている可能性があります。このような場合、放置すれば、残った癌細胞が増殖し、前述した局所再発という形で現れます。この局所再発を予防するため、乳房部分切除後には、残った乳房に、放射線をかけることが原則です。放射線照射の効果はいくつかの臨床試験で証明されており、放射線をかけなければ、局所再発は20パーセント以上のケースにおこりますが、放射線をかけることで、10パーセント以下に減らせるというデータがあります。  また、転移、再発した腫瘍に放射線を照射すると、腫瘍の縮小効果がみられます。乳がんは骨への転移がよく起こり、強い痛みが生じることがありますが、ここに放射線をかけることで、痛みを軽減することができます。
5 通院は必要なの?
 乳がんは全身病という考え方もあり、比較的転移再発が多い癌といえます。
  再発としては、骨転移、肺転移、脳転移、肝転移、胸膜転移、リンパ節転移、局所再発、など多くの形態があります。こうした再発の有無を調べ、再発があれば適切な対応を行うために、定期的な通院、検査が必要です。また、反対側の乳房に癌が発生する可能性は、癌のタイプや補助療法の内容によっても違ってきますが、乳がんになっていない人が初めて乳がんにかかる率の、数倍は高いといわれています。一度乳がんにかかった人は、またかかりやすいということです。したがって、反対側の乳房に癌ができないか、きちんとフォローアップをすることも重要です。
  乳がんの転移、再発がおこる場合、その95パーセントは、術後10年以内におこるとされていますので、術後10年間、3から6ヵ月毎に通院していただくのが妥当と考えられます。この間に適宜、血液検査やCTなどを行い、再発の有無をチェックします。また、反対側の乳房のマンモグラフィーなども定期的に行い、新たな乳がんの発生がないか、注意して観察します。
 再発があれば、抗がん剤投与や、放射線治療などを、再発の形態に応じて適切な治療を行います。再発した場合でも、適切な治療を行えば、生存期間を延長したり、QOLを改善することができます。
6 広尾病院の乳がんの診療について
 広尾病院では、乳がんの診断から治療、その後のフォローアップまで、外科の担当医が一貫して主治医となり、放射線診断医、放射線治療医、形成外科医などと連携しながら、診療を行っています。
 手術、抗がん剤治療、ホルモン療法、放射線療法など、様々な治療法を、患者さんの状態に応じて組み合わせ、提供いたします。インフォームドコンセントを重視し、どの手術方法(乳房温存か乳房切除か、乳房再建を行うか、など)を選択するか、どういう補助療法(抗がん剤、ホルモン療法、など)が有効かなど、できるだけ客観的なデータに基づいて提示し、患者さんに、納得のいく治療を受けていただけるように心がけています。
 他の病院で乳がんと診断された方で、セカンドオピニオンを希望される方も、ぜひ御来院ください。できるだけわかりやすい説明をいたします。  また、乳がんにかぎらず、乳房に気になる症状がある方、また症状は無くとも、乳がんが心配である方なども、受診いただければ、丁寧に診察し、必要な検査を迅速に行います。

 毎週火曜の午後1時より、乳腺の専門外来を設けておりますので、できるだけ電話で予約の上、ご来院ください。また、平日午前の一般の外科外来でも、乳房の診察は可能です。火曜日に都合が悪い方は、一般外来を受診していただいても結構です。

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